人魂の生態

最近、虚ろな部屋という空想上の部屋に行くと青白い人魂が居る。虚ろな部屋は電球が裸で天井からぶら下がっていて、木でできた部屋だ。窓からは満天の星空が見える。しかし出入り口はなく、気温というものは存在せず、空気の流れさえない。

 

人魂は普段、僕の右斜め上に居る。歩くとついてくる。好きなひとのことを話すときだけピンクになる。大きくなって抱きしめてくれることもあるけれど、基本は僕の両手に乗るくらいの大きさ。人魂はどうやらゆたか兄らしかった。例えば一緒に本棚の整理をしているとき「お金に困ったらこの本を売りな。カウンセリング2回分にはなるから」「この食器はインザムードで、この食器は……」などとゆたか兄しか知り得ない情報を持っている。人魂は気温を感じられず、痛みも感じず、味も分からず、お風呂にも入らないしご飯も食べないし、声も出せないし、歩くこともできない。服は着ていない。ゆたか兄曰く今の自分は幽霊みたいなものらしい。

 

ゆたか兄は消えてからの4ヶ月間、別人格であるゆたかの目を通して世界を見ていたらしい。ゆたかにはその自覚がないらしいが。だから人魂とゆたかは同時に出現することができないようだ。

 

人魂と相談しながらゆたか兄のものを処分していった。メルカリに出したり捨てたりした。人魂はモノにあまり執着がないようだった。消えて仕舞えば全てないものになるのだから、と言い切った。

 

人魂はちぢみほうれん草のクリームパスタが食べたいと言った。味を感じられなくても、だ。

 

人魂はいつまでここに居てくれるのだろう。ずっと守護霊みたいにくっついてくれたら良いのに。